福島原発事故から満13年がたって ー能登半島地震は強く警告するー
どこまで続く『原子力緊急事態宣言』
事故から満13年になるというのに、『原子力緊急事態宣言』は解除されていない。 原子力災害対策特別措置法では「原子力災害の拡大の防止を図るための応急の対策を
実施する必要がなくなったと認めるとき」に、首相が緊急事態宣言を解除するとある。 独占資本の経営者たち(経団連や経済同友会)にどこまでも忠実で、田中や中曽根や
安倍などの歴代首相以上に原発推進に前のめりになっている岸田君にも、流石に『原 子力緊急事態宣言』は解除できない。解除もできない状態で、老朽原発を再稼働し、
寿命が尽きても稼働年数を延長し、新増設も図るという。
原子炉建屋内の現実
2、3号機の原子炉格納容器の上蓋(うわぶた)が、デブリ(溶け落ちた核燃料) に劣らない極めて高濃度の放射能で汚染されたまま、手もつけられないありさまであ
る。上蓋は直径約12mの分厚いコンクリート製の三枚重ねで、総重量約465トン もあり、動かすのも容易ではない。
2号機の上蓋の放射性セシウムの濃度は、少なくとも2京〜4京ベクレル(京は兆 - 7 - の一万倍)で事故時に大気に放出された量の2倍程度と推計される。2年や3年たと
うとも、20年や30年たとうとも決定的に改善されるわけでもない。3号機も同様 である。
1 、2、3号機とも原子炉圧力容器の底部はすっかり破損し、格納容器の底部も溶 けてしまって、見る影もない。それぞれの炉のデブリがどのような状態でどこにある
のかさえ、いまだに把握できない。
小さいカメラを工夫し、細い通路を作って送り込んでみても、放射線レベルが極め て高い中、すぐに装置は故障してしまって、拡散したデブリを見ることも写し撮ることもできない。
東電は2号機のデブリのロボットアームによる取り出しについては3月中に始める 計画を断念すると発表した。延期は3回目。工法を変え10月の開始を目指す。
かくして格納容器上部からであれ、底部からであれ、デブリを取り出すことは不可 能に近い。日立や東芝や三菱や東電が構想する「廃炉作業」は、10年や20年で済 むことではない。50年、80年いや100年以上をかけねばならなくなる。事故処 理にかかった費用は13年間ですでに14兆円を超えている。
「廃炉作業」は日立、東芝、三菱等にとっては何十年にもわたり、建設費をはるか に超えて、何十兆円、何百兆円もの儲けになるかもしれないが。これによってどれほ ど多くの労働者の健康と命が犠牲にされ、国民の電気料金や税負担が上がることか。
しかもデブリ等を取り出してみたところで、どのように処理して、どこに処分するというのか。
筆者らが当初から指摘してきたように、デブリは取り出さず、原子炉や格納容器な どは解体しないまま封じ込めて管理保管する以外にないのである。
開始された大量汚染水の海洋放出
自民党政権に支持されて東電は大量汚染水の海洋放出処分を強行開始した。全魚連 や福島県民や国民や近隣諸国民の意志を踏みにじって。
「規制値以下に希釈して放水するから問題ない」とするが、何倍に薄めようとも、「処理水」に含まれるトリチウムや、まだ残存する放射性ストロンチウムやセシウム
等々の絶対量(総量)は少しも減るわけではない。
第一原発のすぐ近くには広大な空き地を残す第二原発がある。ここにタンクを造り、配管輸送して放射能が十分に減衰するまで貯蔵することは容易である。セメント固化 (モルタル固化)貯蔵も可能である。
この明快な解決策が実現されないのは、わずかな所要資金を、東電が利潤のためにではなく漁民、国民のために使うことを惜しむからである。そればかりか東電はここに新たな原発を造るために空き地としておきたいものと推察される。
汚染水をろ過するための多核種除去設備(ALPS)からは高濃度の放射性物質の汚泥が生まれる。これを保管する容器(HIC)はすでに1万基に迫る。現状の運用
のままでは、置き場が満杯になり、ALPSによる汚染水処理ができなくなる。これ らHICの保管にも、第二原発の敷地を活用すべきである。
汚染土の中間貯蔵施設
第一原発の周辺には広大な「中間貯蔵施設」が設置され、各地から汚染土などの土 のう袋が運ばれている。政府は30年(2044年度)以内に、「県外最終処分場」 を決めると約束したものの、候補地探しも始まっていないし、引き受けるところが現 れるはずもない。
岸田政権は、各地の道路建設や埋め立てなどに使用させるつもりらしい。
そのために環境省が乗り出して、埼玉県所沢市(環境調査研修所)や茨城県つくば市(国立環境研究所)や新宿御苑に持ち込んで突破口にしたいらしい。
福島県内であれ県外であれ、そのようなことが許されてよいはずもない。
「中間貯蔵施設」は東電が自らの土地・施設として買収し、せっかく集めた汚染土 をどこにも拡散させることなく、自らの責任で長期的に管理保管するべきである。発
生者責任は東電にあるのだから。
改めて能登半島地震の教訓
元旦の大地震は改めて原発があってはならないことを白日の下にさらした。経団連・独占資本とその自民政権が13年前の事故を無かったかのごとくあしらって、目先
の利潤のために原発推進へ猪突猛進する事態がいかに危険で、国民の命と生活を破壊 するものであるかを改めて明らかにした。
能登半島地震の震源地近くに関西、中部、北陸の三電力が計画した「珠洲原発」が、もし住民の反対運動なしに建設されていたら、事態はどうなっていただろうか。
破損した原発から大量の放射能が漏れだしても、この地は大半の住宅が壊れ、陸路も海路も閉ざされ、自宅への避難も外への脱出も不可能となった。
石川県志賀町にある北陸電力の志賀原発は、幸いにも運転停止中で、過酷事故は起きなかったが、周辺の空間放射線量を測定するモニタリングポストは30キロ圏内で18ヵ所が測定不能になった。13年前の福島では放射線量の把握ができずに、多くの県民が放射線量の高い地域に逃げて、高い被曝を受けてしまった。志賀町近辺では
道路が寸断され、退避も不可能になった。
「異常なし」と発表されたが、外部電源1系統が失われ、変圧器からは20キロリ ットルの油が漏出し、取水槽の水位は約3メートル変動した。原発施設下の地盤の隆起や変異や、機器の破損や異常の有無については何も発表されないままである。
柏崎刈羽原発はどうか
柏崎刈羽原発が休止中であったことは幸いであった。
能登半島地震によって新潟県内や柏崎市や刈羽村では、地下土砂の流動化もあった。道路にはひび割れが走った。この状況を見れば、原発敷地内でも地盤の隆起や変異があったものと推察される。
長らくの休止中であったが、この地震によって原子炉格納容器や圧力容器や、それに付帯する装置や機器や、それらへの配管接合部などに亀裂や劣化が生じても少しも不思議はない。無数の大小の長い配管に曲部等でひび割れが生ずることは大いにありうる。これらすべてをチェックして改善することは事実上不可能である。
ここでも東電や自民政権や経産省や原子力規制委員会は、近辺地下や海底の活断層と活断層に連動して動く断層を無視し、将来の中越大地震の発生も軽視したまま、「異 常なし」と公表して早晩再稼働しようとするのであろうが。
東電や岸田君が稼働させようとしている原発は、電気出力各135・6万kwを持つ最大規模の6号機、7号機であり、この稼働は、小型の福島第一原発の1号機(電
気出力46・0万kw)、2、3、4号機(電気出力各78万4千kw)以上の大事 故に連なる。大型だと負荷変動時、特に緊急停止時等に大事故を起こしやすい。
(原 野人)
汚染物質は電力資本の敷地外に拡散させるな!
東電など電力独占資本は汚染物を敷地外に出して、発生者責任を逃れようとする。東電と政府は、せっかく集めた汚染土を、今度は各地に拡散させてしまおうとしている。岸田政権によって、各地の道路建設や埋め立てなどに使用させるつもりらしい。
まずは環境省を使って、東京の新宿御苑や埼玉県所沢市(環境調査研修所)や茨城県つくば市(国立環境研究所)に運び込んで突破口にする算段である。汚染水は海に放出して拡散させ、敷地からはなくしてしまう計画を強行しようとしている。
使用済み核燃料も「中間貯蔵施設」と称して青森県や長崎県(対馬)に持ち出してしまおうとしている。その先の再処理工場は、稼働のめども立たない。そもそも再処理工場がまともに稼働したところで、精製されるプルトニウムの有効な平和的用途はない。夢の原子炉といわれた高速増殖炉は、日本の「もんじゅ」もフランスの「スー
パーフェニックス」も悪夢の原子炉となってとうに破綻している。再処理工場の稼働は放射能をさんざん大気と海に拡散させて、人々の健康を破壊し命を奪うこと以外に意味はない。
電力資本は有害な無用の長物を自分の敷地外に持ち出すことによって責任逃れを進 める。 我々はあくまでも発生者責任を追求して、独占資本の敷地内に貯蔵させるべきと考える。
( 1 )福島の汚染土が処理され置かれている敷地(中間貯蔵施設)は、すべて東電に買収 させて自らの敷地とさせ、飛散させないように、きちんと貯蔵・管理保管させるべきである。
( 2 )汚染水の海洋放出はせずに、第二原発の敷地にタンクの新設か、セメント固化によって貯蔵させる。このことは、拙稿を載せていた当時の『週刊新社会』が明解に主張していた。青木理さんも一昨年の「サンデ―モーニング」で提起している。(この汚染水の発生そのものをなくするためには、筆者らが当初から指摘していたように、凍土法などという大きな欠陥のある方法はやめて、原子炉建屋の地下部を四方から鋼板やコンクリートで完全に囲み、地下水の流入をなくする必要がある。それによって完全循環水冷却方式〈加熱された水は、外部で空冷しながら循環使用〉をとることもできるし、将来は窒素冷却方式に、さらには空冷方式に移行することもできる。)
( 3 )使用済み核燃料は、青森県などの外に持ち出すことなく、第二原発敷地に、第一原発分も第二原発分もプール貯蔵した後には、空気冷却貯蔵設備を造って、長期貯蔵させるべきである。
( 4 )多核種除去設備(ALPS)で生まれる汚染廃棄物(HIC)や、横たわる高濃度汚染配管や、汚染がれき等々の汚染物質も第二原発に貯蔵できる。
( 5 )原子炉建屋内、特に圧力容器と格納容器の下部には大量の放射性物質が、デブリなどとして近づきがたくトグロを巻いている。デブリがどのように分散しているのかさえ、いまだに捉えられていない。2、3号機の原子炉格納容器の上ぶた(蓋)
にもデブリ並みの極めて高濃度の放射能が堆積している。
「廃炉処理」と称して100年もかけてデブリなどを外部に取り出しても、それをどうしようというのか。東電としては使用済み核燃料や、再処理で生まれるはずのガラス固化体などの高レベル廃棄物とともに、北海道や青森県や長崎県(対馬)などの外部に埋設処分したいのであろう。 百年にもわたる「廃炉処理」によって、日立、三菱、東芝等々にとっては建設費をはるかに超えて、何十兆円、何百兆円もの儲けになるかもしれないが、この作業にかかわるどれほど多くの労働者が、健康と命を奪われることになるだろうか。
小出裕章さんや筆者が当初から指摘してきたように、デブリ等は取り出さず、原子 炉や格納容器などは解体しないまま封じ込めて、長期的に管理保管する以外にないのである。 独占資本の政治的代理人である自民党とその政権は人間の命の上に利潤を置き、以上のような不可欠な処置をとることなく、発生者責任をかなぐり捨てて東電等々の敷地から汚染物質を外に持ち出し拡散させようとする。
4月14日に脱原発を完了させたドイツに恥じることもなく、12年前の事故はな かったかの如く、野蛮にも稼働年数を60年以上に延長し、懲(こ)りもせず地震列島にさらに原発を新設しようとしている。
他方では、「法の支配」を強調する岸田首相は憲法を根底から蹂躙し、敵基地攻撃能力を整備して帝国主義的侵略戦争を復活させようと、独占資本のために露骨な軍拡を進める。ウクライナ支援を名目に殺傷兵器輸出を解禁して、三菱をはじめとする独
占資本に濡れ手に粟の利潤拡大をはかる。
(原野人)
福島原発事故から13年目を迎えて
ーまったく進まないデブリの取り出しー
どこまで続く原子力緊急事態宣言
事故から満12年たったのに、原子力災害対策特別措置法に基づく『原子力緊急事 態宣言』は解除されていない。法律では「原子力災害の拡大の防止を図るための応急
の対策を実施する必要がなくなったと認めるとき」に、首相が解除するとある。
あの「統一教会」のために暗殺された安倍元首相にもこれを解除することはできなかったが、「原発依存度を低減する」との公約を反故にして、福島事故以前より過酷
な60年超の稼働を認め、従来炉をほんの少しばかり改めた(危険性が減ったとは到 底言えない、むしろ事故はかえって増えそうな)「次世代型原発」で建て替えや新増
設を推進するという岸田首相にも、流石に『原子力緊急事態宣言』は解除できていな い。
原子炉建屋内の現実
2、3号機の原子炉格納容器の上ぶた(蓋)が、デブリ(溶け落ちた核燃料)に劣 らない極めて高濃度の放射能で汚染されていることが判明したのは一昨年のこと。こ
れがいつどのようにして生じたのかもいまだに明らかにされていない。
上蓋は直径約12mで分厚いコンクリート製の三枚重ねで、総重量約465トンも あり、動かすのも容易ではない。
2号機の上蓋の放射性セシウムの濃度は、少なくとも2京〜4京ベクレル(京は兆 の一万倍)で事故時に大気に放出された量の2倍程度と推計される。
放射線量は毎時10シーベルトを超え、人が1時間ほどとどまれば確実に死亡する。 デブリのある格納容器底部の毎時7〜42シーベルトにも匹敵する。3号機も同様で
ある。この上蓋のデブリ並みの放射能をどこかに除去することすら困難となった。
そのため格納容器上部から底部のデブリを取り出すことも完全に不可能となった。 日立や東芝や三菱や東電や国が構想する廃炉作業では、どれほど多くの労働者を犠牲
にせずにはすまないことか。
下部から取り出そうとしても、デブリがどのように分散しているのかさえ、いまだ に少しも捉えられていない。リモートでの操作装置やカメラは強い放射線によってす ぐに壊れてしまうからである。
事故処理にかかった費用は10年間ですでに13兆円を超えている。廃炉作業は日 立等々にとっては何十年にもわたり、建設費をはるかに超えて、何十兆円、何百兆円
もの儲けになるかもしれないが。
筆者が当初から指摘してきたように、デブリは取り出さず、原子炉や格納容器など は解体しないまま封じ込めて管理保管する以外にないのである。
汚泥容器などの劣化
多核種除去設備(ALPS)から出る高濃度の放射性物質の汚泥を保管するポリエ チレン製の容器(HIC)はすでに四千基を超えているが、強い放射線などのために
劣化が早い。
現状の運用のままでは、この4月には置き場が満杯になり、ALPSの汚染水処理 ができなくなる。ALPS処置ができなくなれば、きわめて高濃度なままの汚染水が
もろに海洋放出されることになる。敷地南側の置き場以外に、新たな場所に保管設備 を確保する必要に迫られている。F―1の敷地はすでに事実上は満杯なのだが。
瓦礫を入れたコンテナなども劣化が進む。これらからの漏洩リスクが高まっていて、 新しい容器に移し替える必要に迫られている。
大量汚染水のゆくえ
東電も岸田政権も原子力規制委員会も、大量汚染水の海洋放出処分を強行する方針 である。全漁連や福島県民や国民や韓国民の意志を踏みにじり、今年春から夏に開始 するという。しかしこれ以上の放射能の環境への拡散は断じて許されてよいことでは ない。すぐ近くにある第二原発(Fー2)の敷地をこそ活かすべきだ。
残存する放射性セシウム137(半減期30・0年)やストロンチウム90(同2 8・8年)、トリチウム(同12・3年)等は再浄化して濃度をいかに下げるとはい
っても、汚染水の絶対量が多いだけに無視できない。希釈しながら少量ずつ放出する としても、トリチウムだけでなく、排出放射能全体の量は多量になる。
放出しない最善の解決策は、第二原発の広大な敷地を活用することである。ここに タンクを造り配管輸送すれば、まだ何十年分をも貯蔵することができるし、セメント 固化して半永久的に貯蔵することもできる。
また上記のALPS処理で生まれるHICもここFー2に貯蔵できる。
この汚染水の発生そのものをなくするためには、筆者らが当初から指摘していたよ うに、凍土法などという不十分な方法はやめて、原子炉建屋の地下部を四方から鋼板
やコンクリートで完全に囲み、地下水の流入をなくすることである。それによって完 全循環水冷却方式(加熱された循環水は、外部で空冷して再使用)をとることもでき
るし、将来は窒素冷却方式に、さらには空冷方式に移行することもできる。
第二原発の敷地には、これから使用済み核燃料の水冷後の空冷貯蔵庫等をつくると しても、広大な敷地は十二分に空いている。この明快な解決策を実現しようとしない のは、さほど高くもない所要資金を、東電が利潤のためにではなく漁民、国民のため に使うことを惜しむからである。あるいはこの敷地に、新たな原発を建てるという下 心があるからであろう。
汚染土の中間貯蔵施設
第一原発の周辺には広大な「中間貯蔵施設」が設置され、各地から汚染された土な どの土のう袋が運ばれてくる。東京ドーム個を超える量だ。政府が30年(20411
4年度)以内に決めると約束した県外最終処分場は、候補地探しも始まっていない。
岸田政権は、各地の道路建設や埋め立てなどに使用させるつもりらしい。 そのために環境省が乗り出して、東京の新宿御苑や埼玉県所沢市(環境調査研修所) や茨城県つくば市(国立環境研究所)に持ち込んで突破口にしたいらしい。経産省の庭 や、東電や経産省の歴代役員の庭などに持ちこむならいざ知らず、新宿御苑や所沢な ど一般国民が活動したり居住したりする所に持ち込むなど許されてよいはずもない。
「中間貯蔵施設」は東電が自らの土地・施設として買収し、汚染土をどこにも拡散 させることなく自らの責任で長期的に管理保管するべきである。
「復興拠点」の避難指示は解除されたが
事故後に政府が出した避難指示は徐々に解除が進み、双葉町を最後に11年5か月 ぶりに全ての町が避難を解除されたが、そこで暮らす住民は増えていない。
東京新聞(昨年8月31日、9月15日)によると、帰還困難区域に指定され、全 住民の避難が続いていた双葉町の一部で、昨年8月末に避難指示が解除された。今回
避難指示が解除されたのは国費で除染とインフラ整備が進められた「復興拠点」で、町面積の約1割で、残りの放射線量が高い8割超の区域は帰還困難区域として残る。
居住可能になった区域に住民登録している三千五百人余りのうち、帰還に向けた準備 宿泊への参加は八十人ほどで、事故前の人口の一%だった。幼稚園や学校が再開する
めどは立っておらず、病院もなく、買い物は移動販売車のみだ。除染できない山林周 辺などでは線量の高い場所もあり、山菜を楽しむこともできない。
双葉町に先立ち復興拠点の避難指示が解除された大熊町では、住民登録する約五千 九百人のうち、町に戻ったのは十人余りにすぎない。
他県民の年間被ばく線量上限が1ミリシーベルトまでであるのに対して、福島県民 の避難指示解除基準は20ミリーベルトと、20倍も高いことが帰還住民の増えない
最大の原因である。特に若い世代が少ないのも当然のことである。
甲状腺がんの多発と各種がん
通常、子どもの甲状腺がんの発生数は、年間百万人に一〜二人程度なのに対し、原 発事故後、福島県の県民健康調査などで約三百人もが甲状腺がんかその疑いと診断さ れている。これに対し東電も国も県も原発事故との関連を無視して、責任をとらない。
「甲状腺がんになったといえば差別されるのでは」と懸念しつつも、当時6〜16 歳で福島県内に住んでいた17〜27歳の男女6人が、勇を鼓して東電に損害賠償を
求め東京地裁に提訴したが、大部分の甲状腺がん被害者は黙したまま涙を呑んでいる。
県内に住んでいた人々の各種がんの罹患率なども、被曝線量の低い他県民との比較 で検証することなども全くできていない。
少しの反省もない独占資本とその責務
独占資本とその代理人たちは、上記のありさまに何の反省もなく、目先の利潤のた めには、脆化が進んだ原発まで60年を超えて再稼働させる。そればかりか新・増設
が必要だとする。三菱重工や日立や東芝は危険性が基本的に違わない「革新型原発」 の開発にいそしむ。
とうに完全に破綻した高速増殖炉や再処理工場がまだ生きているかのように見せ て、電力資本は使用済み核燃料を青森等の外にもちだし、肩の荷を軽くしようとする。
使用済み核燃料も、汚染土も、汚染水も、その他の汚染物質も、外に拡散させずに すべては電力資本の土地に電力資本の責任で、半永久的に管理保管させるべきである。
労働者国民の立場に立てば脱原発こそが最優先課題であり、洋上風力発電の推進で 原発ゼロ・脱火力も容易に可能となることを肝に銘じよう。
(原野人)
原発の新設・稼働延長と軍備の拡張
「最長60年の運転期間をさらに延長するとする。具体的には原子力規制委員会の審査に要した期間や、定期点検や故障・修理のために停止していた期間を運転期間から除くことによって、事実上伸ばすことなど、姑息な方法を検討しているらしい。」しかし独占資本とその政権の反動化はこのような推察をはるかに超える事態である。
運転期間制限の撤廃へ
福島事故後に原発の運転期間を「原則40年、最長60年(1回に限り20年延長できる)」と定めた改正原子炉等規制法を改悪して、原発の運転制限を撤廃するというのだ。すでに4基が20年延長され、そのうち関電美浜3号機が再稼働したものの、他方では福島第一、第二を別として11基の廃炉が決まり、老朽原発の延命に歯止めとな
っていた。2030年までには他に11基が運転開始から40年となり、うち何基かは廃炉となる見込みだった。
福島事故前以上の原発推進策へ
岸田自民党政権と経産省は、今後すべての原発の運転制限を撤廃して、60年を超えて稼働できるという方針に転換するというのである。
電力独占資本とその政府の意を受けて、原子力規制委員会という名の原子力規制緩和委員会は11月2日の定例会で、60年を超えた原発でも10年以内ごとに設備の劣化状況を審査し、新規制基準に適合すれば運転を認める方針を明らかにした。
劣化状況を審査するといっても、当初炉内においた試験片がなくなったあとでは、炉壁の脆性破壊温度がどこまで上がっているのかさえ分からない。老朽原発は、何らかの理由で炉心の水位が下がり、冷たい非常用冷却水が注入されれば原子炉本体が破裂(脆性破壊)する危険性さえ生まれるのだ。無数の様々な配管が、経年と腐蝕と地震による振動などによってどれほど劣化しているのかさえ、審査することなどとうてい不可能である。
70年、80年稼働した原発がどのような深刻な事故を起こして労働者や農民の命と健康が奪われようとも、規制委員長や経産大臣や首相が処罰されることはない。福島第一事故以降の原発依存度を下げる方針もかなぐり捨てて、原発の新増設や建て替えも進めるという方針と合わせて、福島事故前以上に危険極まりない原発推進策に転じたのだ。三菱や日立や電力9社(日本原電は東電が支配)等の独占資本の利潤拡大のために。
(原野人)
「次世代型原発」の内幕
原子力政策の転換
岸田文雄首相は経団連の要請を受け、「次世代型原子力発電所」の開発・建設を検討するよう関係省庁に指示した。
「次世代型原発」には、「高温ガス炉」や使用済み核燃料を再処理しながら再利用できる「高速炉」、出力30万附以下の「小型モジュール炉(SMR)と「革新軽水炉」などがあるとする。これらがどんな代物か概観する。
高温ガス炉の幻想
「高温ガス炉」は、日本原子力研究開発機構大洗研究所(茨城県)が何年も前から実験炉(HTTR)で研究・開発してきたが、この10年以上トラブル続きで進展なく、実用化どころではない。
冷却材には高温の熱を取り出せるヘリウムガスを使い、発電だけでなく水を分解して水素の製造に併用できることを売りにするが、この部分も進展なし。フル出力中にヘリウムの循環が止まった場合、安全状態を維持できるかの実験すらできていない。英国の高温ガス炉開発に参加方針を打ち出したが、実用化は全く見通せない。
悪夢の「もんじゅ」
「高速炉」にいたっては、日本原子力開発機構の「もんじゅ」や諸国の実験炉で破綻が実証済みだ。
「もんじゅ」は1994年に初臨界したが、冷却材のナトリウム漏洩事故などが相次ぎ、ほとんど稼働せず廃止された。爆発的に燃焼しやすいナトリウムが大量に残り、解体もままならない。夢の原子炉ならぬ悪夢の原子炉だ。
「SMR」と日立
米ヽ英、中、露は「SMR(小型モジュール炉)に力を入れる。ロシアが実用化し、中国も建設に着手。米国でも建設計画が進む。
国際原子力機関(IAEA)によると、21年9月末時点で世界に70以上の計画が進行しているとされる。出力は一般的な大型炉の3分の1以下。工場で大半の設備を造り、短い工期で建設費も抑えられるとする。
出力が不安定な自然エネルギーを補完する「調整電源」の役割を期待するという。飛行機テロを念頭に地下にも設置できる構造を備えるともいう。
しかし、原発を「調整電源」として負荷を絶えず変動させるほど危険なことはない。事故発生の確率は極めて高くなる。原発は負荷を変動させないためにこそ、揚水式発電を組み合わせているのだ。日立製作所と米GEとの合弁会社GE日立ニュークリア・エナジーなどが20年代後半の稼働をめざす。日本にはまだ「SMR」の規制基準はない。
「革新軽水炉」と三菱重工
「革新軽水炉」は、経団連と経済産業省が新増設の検討の中心に据えたいらしい。既存の大型軽水炉の技術に若干の改良を加え、福島第一原発事故後にできた新規制基準で求められる安全対策などを装備するとする。
大型飛行機が衝突しても放射性物質を外に漏らさない頑丈・な構造とされ、冷却水の配管も複数備える。経産省の審議会は、2030年代の運転開始へ開発工程表案をまとめた。大型炉で初期費用はかかるが、発電コストは他の方式より低いとされる。
開発を進める三菱重工業はすでに電力会社と初期設計について協議を始めた。
まず美浜原発から
新増設が具体的にどういう形になるか見えないが、想定される候補地の一つが関電美浜原発(福井県美浜町)。1、2号機は廃炉作業中で、残る3号機も稼働から40年超だ。
関電も「新増設や建て替えが自ずと必要になる」との立場で、東日本大震災前には1号機の後継について自主調査も始めていた。
経団連と自民政権
目先の利潤を最大限にしたい独占資本と自民党政権と経産省は、建設によっても稼働によっても、より大きな利潤を獲得できそうな次世代原子炉に向けた討を進めてきた。
当面の利潤こそ第一で、「トイレなきマンション」を平然と建て続け、増え続ける核廃棄物・死の灰をどうするかには目をつむる。
ロシア一ウクライナ戦争で火力発電のコストアツプに加え、世界での原発拡大の動きに便乗、経団連と経産省は原発推進に転ずるタイミングと判断、原発復権の宣伝を本格化させている。彼らの思惑を許さない反対運動を広め、強めなければならない。
もし米中開戦すれば
他方、日米軍事同盟によって米軍基地は台湾にはなく、沖縄をはじめ日本列島にある。もし台湾を巡って米中が開戦すれば、沖縄は真っ先に壊滅的な攻撃を受ける。横田や三沢や岩国などの米軍基地だけではない。敵基地攻撃能力を持つことになる自衛隊基地も激しい攻撃にさらされる。
いざ開戦となると、中国が原発や再処理施設を攻撃しない保証はない。これからの原発が「大型飛行機が衝突しても放射性物質を外に漏らさない頑丈な構造」としても、原子炉格納容器や核燃料プールや再処理施設を狙った攻撃で、ョ本列島は死の灰に覆われる。 (原 野人)
原発を復権させるのはだれのためか
独占資本はどこまでも最大限の利潤を追求して、労働者や農民や小零細経営者を犠牲にする。そのためには自らの国家、国家機関を大いに活用する。
地震列島に原発を林立させた中曽根康弘科技庁長官・通産相・首相等の政府や首相や通産(経産)大臣等々の責任は少しも問われない。先の最高裁判決でも、東電福島
第一原発の事故について、首相や政府や経産大臣等の国の責任はないことにされた。
気楽な岸田首相も独占資本に踊らされて、原発政策を突如転換した。
GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」で、経団連会長をはじめ、大企業経営者など独占資本の代表者や、御用学者や、連合会長の意見を聞くという場を設け、かねてからの経団連の原発復権方針を採用するという形をとって、岸田首相は原発推進に転じた。原発の新増設や建て替えなどには触れないまま先の参院選挙でも大勝したが、旧統一教会問題等で支持率が急降下し始めた岸田首相を、今のうちに大いに活用しようという独占資本の意思と、岸田君本人のお役に立ちたいという意思が感じられる。
福島事故以降の歴代政権にならって岸田君も原発への依存度を下げると主張していたのに、8月24日にはこれを突如転換して@福島原発事故以来年余り封印していた原発の新増設や建て替えを検討すること、A運転期間の延長によって、来夏以降に新たに7基の再稼働を推進することを柱にして、原発推進政策をあらわにした。
新増設を検討するのは、「既存の原発ではなく、事故対策が改良された小型原子炉などの次世代型」というが、これらはまだ海外で試験中の段階で、安全性は少しも実
証されていない。そもそも小型にすれば安全というものでもない。120万kWの原 発1基に対し30万kWの原発4基となると、むしろ事故発生の確率は4倍になるといえる。基本的原理も必要な装置もさほど違わないのだから、安全な原発などというものは、特に活断層だらけの地震列島ではとうていありえない。
福島事故後に原子炉等規制法改正で原発の運転期間を原則40年と定め、1回に限り20年延長できるとした。それによって4基が20年延長され、そのうち関電美浜3号機が再稼働した。この老朽炉は中性子脆化が進んでいて、いつ破裂してもおかしくはない。
最長年の運転期間をさらに延長するとする。具体的には原子力規制委員会の審査60に要した期間や、定期点検や故障・修理のために停止していた期間を運転期間から除くことによって、事実上伸ばすことなど、姑息な方法を検討しているらしい。
すでに再稼働したことがある基に加え、新たに5原発7基(東電柏崎刈羽6、7号機、関電高浜1、2号機、日本原電東海第二、中国電島根2号機、東北電女川2号
機)の再稼働を目指し、17 基稼働体制をもくろむ。
柏崎では侵入検知器の故障問題など無視して、迫りくる大地震もものかわ、新潟県独自の検証作業など蹴飛ばそうという。30キロ圏内に全国最多の94万人が住む東海第二原発では義務付けられている避難計画の策定もいっこうに進まない。
独占資本とその政権は福島県民の犠牲など無かったかの如く、利潤のためには猪突猛進だ。 (原 野人)
東海再処理工場の恐怖
東海再処理施設が武力攻撃を受け、保管されている高レベル放射性廃液の一部が外部に放出された場合、首都圏を中心に最悪で四十万人の死者が出ると試算したリポー トを、環境経済研究所(東京都千代田区)所長の上岡直見・法政大学非常勤講師が公表した。
人間が近づけば即死するほどの放射能
東海再処理施設には、使用済み核燃料を再処理して核燃料(プルトニウムとウラン)を分離した残り滓(かす)の核分裂生成物(セシウムなど)を高濃度で含む廃液が、2021年3月時点で358立方メートルもある。放射能は人間が近づけば即死するほど高い。
上岡氏は廃液貯槽自体が武力攻撃で破損して人間による応急対応が不可能になり、十日間にわたって廃液の漏洩が続くと仮定。原子力規制庁が東海再処理施設のリスクを調査した十三年の報告書に基づき、廃液中の放射性物質を420京ベクレル(京は兆の一万倍)とし、セシウムなどが全体の20%(八四京ベクレル)放出されるケースをシミュレーションした。
この放出量は、東電福島第一原発事故由来で現在も環境中に残る放射性セシウムの25倍ほどに相当するとみられる。
20%の放出で四十万人の死者
試算では、これだけの放射性物質が北東から東京方面に吹く風でまき散らされる「最 悪ケース」(上岡氏)を想定。拡散状況を、原子力委員会が策定した原発の安全解析 のための気象指針に準拠して計算した。
その結果を、チェルノブイリ事故後にウクライナで定められた放射能汚染地域の区分(チェルノブイリ基準)に当てはめたところ、茨木、栃木、千葉各県の広い範囲で強制移住(年間の被ばく量が五ミリシーベルト以上など)の対象に。被ばくによる人体への確率的影響を評価すると、死者数の推計は、施設周辺や人口の多い東京都心とその近郊を中心に四十万人になった。このほか、死亡に至らない健康被害も起きる。
すでに核の「逆シェアリング」状態
武力攻撃の態様についてはミサイル攻撃よりも特殊部隊が携行兵器で原子力施設を狙うリスクの方が高いと指摘(*)。仮に自衛隊などが警備を強化したとしても相手を排除する過程で交戦が起こり、施設の破壊を招きかねないとの見解を示す。
日本国内に米国の核兵器を配備して日米で共同運用する「核シェアリング(共有)」の議論を求める声が安倍晋三元首相や日本維新の会の松井一郎代表(大阪市長)らから上がっているが、こうした主張に対し、上岡氏は「現状がすでに『逆シェアリング』で、対立国家の核兵器をわざわざ国内に誘致しているのと同じ」と疑問視。「本質的な安全保障の第一歩は、脱原発と核物質の撤去だ」と訴える。(*ミサイルや艦砲射撃の方が安全という意味ではない。)
原発は即時稼働中止、参戦も戦争準備・軍備増強も禁止以外にない
プルトニウムを有効活用できるはずの高速増殖炉「もんじゅ」はとうに破産して解体中であり、巨兆の国費を浪費しながら青森県に建設中の再処理工場は二六回も完成が延期され、スクラップにするほかはない。だがここにも試運転によって生じた高レベル廃液は247立方メートルもある。東海村でも六ヶ所村でもこの廃液は速やかにガラス固化する以外にない。原発の稼働は全面即時中止。いかなる開戦、参戦も無条件に禁止だ。
「電力不足」は見え透いた嘘
最近の「電力不足」、「電力危機」の宣伝ほど見え透いた嘘もない。どんな猛暑日であれ、原発抜きで全国の発電施設は十分にある。休止させている火力発電を速やかに稼働させることで十分な電力を供給することができる。
しかも火力発電所が活躍しているのは9電力だけではない。石油化学コンビナート、パルプ、鉄鋼等々の多くの産業では火力発電所等を持っている。必要な時はそれらから9電力は電力を購入することができる。日銀と政府の超低金利政策によって、輸入石油、LNG等の価格が上がり、発電コストが上っている今日、9電力は原発の再稼働を狙って、「電力不足」を喧伝する。今年は原発を9機も稼働させるという。
エネルギー源の輸入をなくするためにも、「エネルギー危機」や「電力危機」をなくするためにも、洋上風力発電を建設することこそ最善の道なのに。
大型火力さらに原発へと資本の有機的組成を大いに高度化させて雇用を減らすことができたのに、風力などによってこれに逆行し(装置が多数に分散して)雇用が増え ることを嫌がっているらしい。 (原 野人)
福島原発事故から満11年 デブリ取り出し・廃炉に何十年かけるのか
どこまで続く原子力緊急事態宣言
事故から満11年になるというのに、原子力災害対策特別措置法(原災対策特措法) に基づく『原子力緊急事態宣言』は解除されていない。法律では「原子力災害の拡大
の防止を図るための応急の対策を実施する必要がなくなったと認めるとき」に、首相 が解除するとある。「アンダーコントロール」にあるとうそぶいて五輪を誘致した安
倍君にも、流石に『原子力緊急事態宣言』は解除できなかった。
原子炉建屋内の現実
原子力規制委員会の調査チームは昨年1月に、2、3号機の原子炉格納容器の上ぶ たが極めて高濃度の放射能で汚染されているとする報告書を提出した。20〜30年
で廃炉作業を終えるなどとする東電と政府の計画は、完全に吹き飛んでしまった。 2、3号機の原子炉格納容器の上蓋は、規制委が「デブリ(溶け落ちた核燃料)が
上にもあるようなもの」というほどに極めて高濃度に汚染されていることが新たに分 かったのである。上蓋は直径約12mで分厚いコンクリート製の三枚重ねで、総重量
約465トンもあり、動かすのも容易ではない。 2号機の上蓋の放射性セシウムの濃度は、少なくとも2京〜4京ベクレル(京は兆 の一万倍)で事故時に大気に放出された量の2倍程度と推計される。
放射線量は毎時10シーベルトを超え、人が1時間ほどとどまれば確実に死亡する。 デブリのある格納容器底部の毎時7〜42シーベルトにも匹敵する。3号機も同様で
ある。 そのため格納容器上部から底部のデブリを取り出すことも極めて難しくなった。日 立や東芝や三菱や東電や国が構想する廃炉作業では、どれほど多くの労働者を犠牲に
せずにはすまないことか。事故処理にかかった費用は10年間ですでに13兆円を超 えている。廃炉作業は日立等々にとっては何十年にもわたって、建設費をはるかに超
えて、何十兆円もの儲けになるかもしれないが。 筆者が当初から指摘してきたように、デブリは取り出さず、原子炉や格納容器など は解体しないまま封じ込めて管理保管する以外にないのである。
2、3号炉底部のデブリは、遠隔操作のカメラから短時間ごく局部的に診られただ けで、全体像は全く不明なままである。強い放射線によってカメラや挿入装置はすぐ
に破壊されてしまう。1号炉底部に至っては、まだ少しも映しとることもできていな い デ 。 ブリから発せられる放射線で水がどの程度分解されて水素が発生しているのかも
分からないまま、水素爆発を防ぐために、やみくもに窒素を注入し続けている。 各建屋上部にあるプールからの核燃料の搬出すら、クレーンなど機器の故障や、核
燃料体の変形や、11年前の水素爆発時に生じた瓦礫などに妨げられて、思うように いかない。 『緊急事態宣言』の解除どころではない。
ALPS汚泥容器などの劣化
多核種除去設備(ALPS)から出る高濃度の放射性物質の汚泥を保管する容器は すでに三千三百基にもなるが、強い放射線などのために劣化が早い。瓦礫を入れたコ
ンテナなども劣化が進む。これらからの漏洩リスクが高まっていて、新しい容器に移 し替える必要に迫られている。
大量汚染水のゆくえ
東電も自民党政権も原子力規制委員会も、汚染水の海洋放出処分の方針を「いつま でも先送りはできない」とする。全国漁業協同組合連合会(全漁連)などは「漁業者 の総意として絶対反対」である。福島県民も近隣県民もおそらくは全国民の圧倒的多 数も、反対であろう。韓国など近隣諸国も懸念を示している。 トリチウム(三重水素)は放射能としては弱いものの、水になっていて人体のあら ゆるところに出入りし、ベータ線を内部照射するので軽視できない。放出時にいかに 希釈しようとも総量は不変である。 放射性セシウムやストロンチウム等々は濾過されているとはいっても、汚染水の絶 対量が多いだけに無視できない。人々が懸念するのも当然である。 最善の解決策は、十分な空き地がある第二原発にタンクを造り、配管輸送して放射 能が十分に減衰するまで貯蔵することである。セメント固化貯蔵も可能である。こん な明快な解決策が実現されないのは、東電がわずかばかりの所要資金を、利潤のため にではなく漁民、国民のために使うことを惜しむからである。 原子炉建屋の地下に流入する水を防ぐために、東電は凍土法を用いてきたが、筆者 らが当初から警告した通り、流れの早い箇所等では凍らない部分が生じている。四方 からまともな遮水壁を造って原子炉建屋の下に地下水が流入するのを止めていたら、 汚染水の増加はとうになくなっていた。完全循環水冷却方式を確立することもできて いたはずである。十全な遮水壁工事を早く実施するほど、タンクの増設は少なくてす む。
中間貯蔵施設と汚染土のゆくえ
第一原発の周辺には千六百ヘクタールの広大な中間貯蔵施設が設置され、県内各地 から放射能で汚染された土入りの土のう袋が運ばれてくる。環境省によると搬入予定
量は千四百万立方メートル。東京ドーム11個をいっぱいにしてもまだ余る量だ。政 府が30年(2044年度)以内に決めると約束した県外最終処分場は、候補地探し
も始まっていない。政府は、各地の道路建設などの下積み土に、なし崩し的に使用す るつもりのようである。
避難した人々の帰還状況と避難解除基準
福島県から県外へ避難した人は、かなり減ったとはいえ今でも約3万人を数える。 事故後に政府が出した福島県内11市町村の避難指示は徐々に解除が進んではいる
が、解除された自治体で暮らす住民は増えていない。 他県民の年間被ばく線量が1ミリシーベルトまでであるのに対して、福島県民の避 難解除基準は20ミリ―ベルトと、20倍も高いことが帰還住民の増えない最大の原
因である。特に若い世代が少ないのも当然のことである。
広い面積をもつ山林地帯は、除染されていないので、キノコや山菜はセシウムなど の高い放射能を持つ。食えば内部被曝となり、山菜も楽しめない。
約3百人に甲状腺がんが発生したのに
通常、子どもの甲状腺がんの発生数は、年間百万人に一〜二人程度なのに対し、原 発事故後、福島県の県民健康調査などで約三百人が甲状腺がんかその疑いと診断され
ている。この多数のがん発生に対し、県も国も被曝との因果関係は認められない、と 押し通した。 「甲状腺がんになったといえば差別されるのではないか」と恐怖を感じながらも、
この1月には、当時6〜16歳で福島県内に住んでいた17〜27歳の男女6人が、 勇を鼓して東電に損害賠償を求め東京地裁に提訴した。 十代で甲状腺がんになり、二人が片側を切除、四人が再発で全摘し、肺に転移した
人もいる。手術や治療で大学や仕事を辞めたり、日常生活が制限されて再発への不安 も抱えている。
少しの反省もない独占資本
独占資本とその代理人たちは、原発事故が国民に何をもたらしたかには目もくれず、 目先の利潤のためには設計寿命を過ぎて脆化が進んだ原発まで再稼働させる。
「脱炭素社会実現のために原子力は欠かせない」と原発の再稼働だけでなく新・増 設が必要だとする。三菱重工や日立は小型の新型原発の開発にいそしむ。巨額の税金
を浪費しながらとうに破綻している高速増殖炉や使用済み核燃料再処理工場にまで未 練を残し、海外資本との提携開発も進める。 民衆の立場に立てば脱原発こそが最優先課題であり、洋上風力発電の推進で原発ゼ
ロ・脱火力も容易に可能となるのだが。
(原 野人)
汚染水最善の解決策
麻生副総理と小泉環境大臣
トリチウム高濃度汚染水を「飲んでもなんちゅうことはない」といったのは麻生副総理だ。麻生さんのお歳なら、もう新たな子どもを望むこともなかろうし、もし大病をすることがあっても、最高の医療を受けられるので、本当に飲んでも寿命に関わるほどのことはないもしれない。だが小泉環境大臣となると、副総理よりもまともな思考力がある上に、まだ子どもを産む予定もあろうし、大病は避けたいであろうから、汚染水を飲むようなことは決してしないであろう。問題はトリチウムだけでなく、一応除去されているとはいえ、発がん作用の非常に強い放射性ストロンチウムやセシウム等々もまだ相当に残っていることを、小泉君は知っているはずである。
海洋放出計画は即中止
政府は福島第一原発汚染水の海洋放出処分を決めた。「風評被害は必至」として漁業者が反対するのは当然である。水産物に命を託す多くの国民だけでなく、近隣の韓国民等も懸念する。トリチウム(三重水素)は放射能としては弱いものの、水となって人体のあらゆるところに出入りし、ベータ線を内部照射するので、風評被害にとどまらない。遺伝子などに悪影響を与えかねず、異常児の出産やがんなどを増やすことも懸念される。放出時にいかに希釈しようとも総量は少しも減らない。麻生翁がコップ1杯の汚染水を5倍に薄めて飲もうが、倍に薄めて飲もうが、トリチウムの総量は少しも減るわけではない。「基準値以下に希釈してから海に放出するから問題はない」などいう説明ほど国民を馬鹿にした説明はない。
放射性ストロンチウムやセシウム等は、一度か二度は濾過されているとはいっても、汚染水の絶対量が多いだけに無視できない相当な量が含まれている。国民の健康のために、海洋放出計画は中止することを、政府、原子力規制委員会と東電はすみやかに決めるべきだ。
第二原発の活用をなぜ避ける
東電にとっては無責任な海洋放出こそ最も安上がりだ。国民にとって最善の解決策は第二原発の広大な空き地を活用することだ。第一原発から第二原発に内径2インチか太くて4インチの配管を1本敷設するなど容易なことである。第二原発にタンクを造れば、まだ何年でも何十年でも貯蔵できる。第二原発にセメント固化(モルタル化)して貯蔵することもできる。第一原発の汚染貯水用の狭い敷地で、大型タンクに造り替えたり、セメント固化して貯蔵することも可能ではあるが、広さに限界があるし、事故も起こしやすい。事故原発からは、放射能レベルの高いがれきや鉄くずなどが運び出され、近くに堆積される。大地震もしょっちゅう起る。満タンに貯水されたタンクのすぐ近くで、巨大タンクを建造する作業を、労働者の身になって考えてみるとよい。
まともな遮水壁を造れ
東電が安上がりに選択した凍土法では、水の流れが速い部分等では凍らないので、十分な遮水効果は得られないと、当初から我々が指摘した通りとなった。漏れの多い凍土法にかえて四方にまともな遮水壁を造って原子炉建屋の下に地下水が流入するのを止めれば、汚染水の増加はなくなり、タンクの増設は不要となる。完全循環水冷却方式も確立できる
(原 野人)
あれから1 0 年目を迎えて
福島第一原発は事故から9年たったが、収束どころではない。
汚染水は?
汚染水はどんどん増えてあふれ出そうである。22年にはタンクの増設も限界に達して、放出するしかないとする。更田規制委員長などはさっさと海へ放水せよと号令をかける。トリチウムだけではない。相当なストロンチウム等もある。濾過されているとはいっても、汚染水の絶対量が多いだけにセシウムも無視できない。福島や茨城や近県の漁民だけでなく、アジア諸国民を愚弄するものである。
考えてもみたまえ。近くの第二原発には広大な敷地がある。かねてから提案しているように、ここに配管輸送し、タンクを造ればまだ何十年分を貯蔵することもできる。セメント固化して保管することもできる。
そもそも凍土壁なぞという糊塗策ではなく、当初から提案しているように、四方から遮水壁を造って格納容器の下に地下水が流入するのを止めていたら、汚染水の増加はとっくになくなっていた。予想された通り凍土法で流入をなくすることはできなかった。そればかりか最近は凍土壁の冷却液が漏れ出すありさまである。
プールの核燃料は?
一見簡単かに見える作業も難題続きで一向にはかどらない。排気塔(これは煙ではなく放射能を輩出するための高い巨大な煙突)を上部から切り出す作業ですら、高放射能の中での切断機のトラブル続きで遅れている。
使用済み核燃料を貯蔵する1〜3号機の各建屋内のプールから、1500体を超える燃料棒を取り出して、共用の貯蔵プールに移設する作業も、困難を極め、遅れに遅れている。事故時に放出された放射能が、建屋内にどっさりあって、崩れた機材と一緒にプールに覆いかぶさっているため、人が近づくのも決死的作業であり、遠隔作業のクレーンも頻繁に故障する。
デブリは?
格納容器の底に溶け落ちたデブリは、相変わらず取り出す計画を進めているが、はかどるはずもない。ごく一部はリモコン式の極小カメラなどで、見ることはできても、全体のメルトダウンした核燃料がどこで何と結合して、どう分散しているかさえ、いまだにわからない。これらを小さく切断して取り出し、さらに原子炉や格納容器を解体撤去することは、どれほどの労働者被曝を増やすことになるだろう。しかもこれらをどこにどのように処分するというのだろう。これらの工事は建設時の費用をこえるような高額となって、再び日立や東芝や三菱等々を大いに喜ばすことにはなるが、民衆の大きな負担増となるであろう。
避難指示が解除されても
オリンピックを前に、原子力緊急事態宣言は解除されないまま、避難指示の解除が進められているが、その多くの地域では放射線管理区域に指定されるべき基準を上回っている。空間線量率は年間20マイクロシーベルトまでよいとされている。国や県は帰還しない避難者への補償や手当は打ち切ることなどによって、無理やり帰還を促しているが、それに応ずる人は少ない。国公立医師会病院の統計によると、福島、茨城、栃木、東京では白血病が急増している。放射能の被害が様々な病気になって現れるのはこれからである。
(原 野人)
福島第二原発の廃炉について
東電は福島第二原発4基の廃炉を今さらながらようやく決定した。
東電によると、この廃炉関連費用は総額で4千億円超に上るとする。全4基の廃炉には40年超の期間がかかる見通しという。これには二つの大きな問題がある。
廃炉計画の実態は
まず原子炉本体や格納容器や建屋を解体・分解する必要があるのかという問題である。核燃料を別扱いするのは当然として、それを取り出した後の原子炉等を解体する必要性は乏しい。予想より増えて建設費に近いほどの高い費用をかけて解体しても、安全に再利用できるものはさほどない。日立や東芝や三菱などの独占資本にとっては、建設時に近い儲け仕事になるかもしれないが、庶民には負担が増すばかりである。
東電によれば廃炉で出ると見積もられる放射性廃棄物は「5万トン超」とされる。その中でも汚染の程度が低いものは再利用するとされるが、大半は再利用できず、埋設などの処分が必要なものとなる。むしろ放射能を含んでしまった鋼鉄等々を外に分散させる危険性の方が問題となる。従って、これらは解体することなく、そのまま墓標にするべきであろう。
使用済み核燃料の行方
もっと重大なのは4基の使用済み核燃料プールに保管する「1万76体」の核燃料をどうするかだ。小早川社長は核燃料を金属容器に入れて空冷する「乾式貯蔵」施設を造り、「廃炉完了までに県外にすべて搬出する」と内堀福島県知事に説明した。いずれすべて県外に搬出するなどといっても、受け入れそうなところはどこにもない。
高速増殖炉『もんじゅ』はとっくに破綻し、廃炉とされている。そのため使用済み核燃料からプルトニウムを抽出する再処理の意味はすっかり消えうせている。青森県六ヶ所村に造った再処理工場は幸か不幸か随所に問題を抱えていて、遅れに遅れ稼働もできない。すでに14兆円を浪費した。
地震、火山、地下水を見るだけでも、日本には使用済み核燃料(高レベル放射性廃棄物)を10万年以上にわたって安全に地下埋設処分できるところなど、どこにもない。青森県に持ち出すことはできないとなると、原発敷地内で永久的に管理保管するしかない。プールから引き揚げて、金属容器に納め空冷の「乾式貯蔵」に移行するとして、そのままで何万年も放置することはできない。屋内の条件をどのようにしても、燃料被覆管も金属容器も腐蝕が進行するからである。いずれ金属容器はより大きな新しい金属容器に納めねばならなくなるであろう。大事故の起きなかった原発でも、このような問題を抱えている。
第一原発の後処理について
メルトダウンを起こした第一原発の後処理ははるかに難題である。格納容器にも建屋にも地下にも放射能は高レベルに拡散している。デブリは金属やコンクリートなどと溶け合って固化している。これをどのようなロボットを使った遠隔操作であれ全部切り出すことなど、多大な被曝と外部への拡散なくしては不可能である。地下水の侵入を遮蔽し、このまま閉じ込めながら管理する方がはるかにベターである。
第一原発の事故はすでに、敷地内のタンクには100万トンを超える高濃度汚染水を生み出す一方で、敷地周りの「中間貯蔵施設」には膨大な量の除染で発生した汚染土が搬入されている。しかしこれが本当に30年以内に県外に搬出される「中間貯蔵」になると信じる県民はいない。汚染土の放射能レベルが多少減っても、再利用を受け入れる県民もいない。国と東電は責任をもって最終的な保管場所を造る以外にない。
年間20ミリシーベルト(通常の20倍)の被曝が許容されるとして、避難した人々を無理やり帰還させ、補償を打ち切るなどはいよいよ許されることではない。いかに除染されたからといって、原発敷地にメルトダウンした核燃料や使用済み核燃料や汚染水を抱え、周辺には汚染土を保管する場所に近い地域に、それらを専門に管理する職員を例外として、一般人を居住させるべきではない。管理職員も家族との居住地は十分な距離をとった方が良い。避難者がどこに住むかは本人の意思を尊重し、住居や職などは長期的に国と東電が保障するべきである。
柏崎刈羽原発はどうなる
目先の利潤の追求に忙しい東電は、柏崎刈羽原発の再稼働をもくろむ。しかし未曾有の大事故を起こした東電に、原発を稼働させる資格があるのだろうか。
福島第一原発の廃炉費用は8兆円、被災者賠償に8兆円、除染等に6兆円、第二原発の廃炉費用に4千億円と試算されている。東電はこれらの費用を柏崎刈羽原発の再稼働で確保したいとする。
しかしこの再稼働のためには安全対策費が、東電の試算で約1兆1700億円となることが分かった。従来の約6千800億円から2倍近くに増えた。テロ対策施設(特定重大事故等対処施設)など、新規制基準への対応費用が大きく増えたことによる。
もっと重大な問題がある。柏崎刈羽原発はすでに何度もの大地震を受けている。これによって、重要な配管や機器、原子炉と配管の接合部や配管の曲部などに脆化が生まれている。何万箇所もある重要な配管の溶接部の周辺には劣化が進行している。
稼働させる場合、次の一撃で大事故が生まれる確率は高くなっている。この大型炉で冷却材喪失事故が生じかねない。そのような悲劇を起こすことは断じて許されない。福島第二に引き続き、柏崎刈羽原発もすべてを廃炉にするしかない。
(原 野人)
あれから9 年目を迎えて
深刻な事態は、福島原発の事故から8年がたっても、少しも改善されていない。
デブリの行方
メルトダウンした核燃料は格納容器の底でどのようになっているかも、まだ部分的にしかわからない。比較的に接近・探査しやすい2号機の様子を遠隔操作のカメラに収めたものの、燃料、被覆管、制御棒、圧力容器(原子炉)、格納容器の金属とコンクリートなどが、どのようなデブリを構成して、どんな硬さでどのように分布しているのかも不明である。3月までには専用機器を取り付けたパイプを投入してデブリに触れ、硬さなどを調べ、19年度からはロボットアームを使い、デブリを数グラム程度採取する計画である。強い放射線を被曝して機器も故障するので、この程度の試行すら、なかなかはかどらない。
ましてこれらを全部切り取って持ち出すとなると、どれほどの労働者が犠牲になることか。また、せっかく閉じ込められている死の灰をどれほど拡散させてしまうことか。当初から指摘しているように、デブリは外に持ち出さずに、遮蔽するのがベターである。何兆円になるかもわからない途方もない経費と時間をかけてデブリを持ち出し、廃炉を解体撤去するなぞは、東芝や日立や三菱の儲け策でしかない。
核燃料の取り出し
デブリどころではない。原子炉建屋上部のプールには健全なはずの核燃料が置かれたままであるが、これを取り出して、外の集合プールに納めることさえままならない。爆発した際の放射性物質が建屋内を強く汚染しているために、燃料棒を取り出す際にそれが飛散するのを防ぐ工夫も、作業員の被曝を抑える工夫も大変である。まずは3号機から昨年に取り出しを開始する予定であった。しかしクレーンや燃料取扱機のケーブルに故障が生じ3月に開始できるかも怪しくなっている。
汚染水と汚染土の行方
高濃度汚染水はすでに総量で110万トンとなった。
東電は多核種除去装置(ALPS)で浄化すれば、水との分離が難しいトリチウム以外のセシウムやストロンチウムなど大方の放射性物質は除去できると説明してきた。筆者はそれらが十分に除去できていない汚染水もあるはずであることを指摘してきた。
10月になって東電は、タンク保管する汚染水の8割は浄化が不十分で、トリチウム以外の放射性物質が法令基準を超えて残留していたとする調査結果を報告した。東電や国や原子力規制委員会(という名の原子力推進委員会)は、改めて処理してから海洋投棄すればよいとする。しかし県漁連だけでなく、年末になって全国漁業協同組合連合会(全漁連)も海洋放出に反対を明確にした。
まず汚染水の増加を止めるためには、凍土壁などでごまかすことなく、当初から述べているように建屋の地下を完全に遮蔽して地下水の流入をなくすることである。
環境省は、除染作業で発生した大量の「除染土」を、比較的低レベルの物は公共事業に使わせるなどという、被害者の気持を逆なでする方針を出した。
発生者責任を明確にして、汚染水(セメント固化の要否は別として)はもとより、除染土(県外分も)等も、広い第二原発と、第一原発の敷地内に保管すべきである。
原子力緊急事態宣言は続く
独占資本と安倍政権は避難者を無理やり帰省させ、安全に生活できるかのように見せて、住宅等々の補償を打ち切るために、年間被曝線量を通常の1ミリシーベルト以下にせずに、20ミリシーベルト以下としたままである。子どもも妊婦も「放射線管理区域」並みの地域に住めという。そのため緊急事態宣言を長らく解除するわけにはいかない。汚染の主役である半減期30年のセシウム137が4分の1に減衰するには60年、10分の1になるには100年を要し、20分の1になって、年間被曝線量が20ミリシーベルトから1ミリシーベルトまで下がるには130年も要する。福島県民にとって、子々孫々に続く深刻な問題である。
独占資本家も安倍君も経産省幹部も裁判官も決して住むことのないところである。庶民は家族も生活も生業も破壊され、健康も命も奪われる。家族離散で認知症も進み、うつや引きこもりも増える。介護保険料はますます高くなる。広大な山野部は除染もできないまま、山菜をとる楽しみすら奪われている。
がんの増加
福島県が県内のすべての18歳以下の子ども約40万人を対象に実施してきた甲状腺検査で、これまでがんが判明したものは200人を超えた。「子どもの場合、がんと診断されるのはデメリットがある」という理由で超音波検査を縮小しようとする動きがある。しかしもともとこの検査は保護者などの同意がないと実施していない。放置されたらがんの転移の恐れも、他の深刻な病気の発生もありうる。
原発事故後に国が甲状腺の被ばく線量を実測したのは1080人にすぎず、大部分の子どもたちは被曝線量が分からないままである。放射性ヨウ素の半減期は8日と短いため、今からでは測定できない。甲状腺がんの発症は原発事故によって放散された放射性ヨウ素のためとは限らない、などと主張する人もいるが、事故が発生した後に生まれた子どもには甲状腺がんの発症が見られないのだから、原因は明白である。
独占資本の姿
原発事故の刑事裁判で、東電は事故の最高責任者3人が無罪を主張している。全町避難を強いられた浪江町の町民約1万6千人の代理人となって5年前に町が裁判外紛争解決手続き(ADR)で賠償金を申し立てたものの、東電は和解案の受託を拒否した。浪江町の住民約100人は昨年11月に福島地裁に損害賠償を求めて提訴した。裁判は時間も費用もかかる。迅速な賠償のために国によって設けられたはずのADRは東電の拒否で機能しないケースが多くなっている。
他方で東電は賠償と廃炉費用の捻出を名目に、柏崎刈羽原発の再稼働や、配下の日本原電で40年を超えた東海原発の再稼働を目指す。
経団連会長・中西宏明日立会長は福島原発の建造と事故には何の責任もないかのような顔をして、安倍君と原発輸出を成長戦略の柱と位置づけ、英国等への輸出に励んできたが、それが完全に破綻するや、恥ずかしげもなく「再稼働はどんどんやるべきだ」と宣う。英国への輸出が立ち消えになった主因は洋上風力発電が拡充され、電力料金が下がっているのと対照的に、原発コストが跳ね上がっていることによる。洋上風力発電を見ると英国は17年時点で684万kW、ドイツ536万kW、デンマーク127万kWなのに対し日本は2万kWにすぎない。しかも福島沖の実証試験では三菱製はほとんど動かないまま撤去。残りの2基を造った日立も風車の製造から撤退するという。日本の独占資本はかくも世界の趨勢に逆行しているのだ。
(原 野人)
福島第一の高濃度汚染水をどうするか
海や大気や地下への無責任な放出はやめよ
いまさら「トリチウム水」が大問題になっている。東電福島第一原発に増加する高濃度汚染水のことである。三重水素(トリチウム)が酸素と結合してできる重水は、普通の水と分離することが至難であり、半減期は12・3年である。体内に入るとDNAを傷つける。汚染水を濾過している多核種除去装置(ALPS)でも全く除去できない。タンクに貯蔵された量は92万トンを超え、今後も年5万〜12万トンペースで増える。東電によると敷地内に増設するタンクは137万トンを限界とする。
政府は、かねてから「有識者会議」に五つの処分方法(@水で希釈しての海洋放出、A気化させ薄めて大気への水蒸気放出、B電気分解で水素を分離し薄めての水素放出、C地中のコンクリートの部屋にセメントと混ぜて流し込む地下埋設、D深い地層内に圧力ポンプで送り込む地層注入)を提示させ、原子力規制委員会によって、東電や国の負担が最低となる@に誘導しようとしている。
福島県富岡町、郡山市、都内千代田区で開いた「公聴会」では、「放出ありき」の方針に、当然のことながら批判が続出した。福島県漁協連合会の野崎哲会長は「試験操業で積み上げてきた水産物の安心感をないがしろにする。海洋放出されれば福島の漁業は壊滅的な打撃を受ける。築城10年、落城1日だ」と強く反対した。関連する漁業は福島だけではない。重水であれ、トリチウムにしてであれ、大気中や地下に放出するのも、空気や水や土壌や作物を汚染することになり、きわめて無責任である。
100万トンに迫る高濃度汚染水の中の放射性物質はトリチウムだけではない。ALPS等の運転が不安定だった時には、ストロンチウム90(半減期28・8年)やセシウム137(同30・0年)がかなり出ているし、半減期1570万年のヨウ素T29や、同21万1千年のテクネチウム99等は常時ALPSを潜り抜けている。これらは濃度としてはさほど高くなくとも、100万トンに含まれる絶対量としては多量となる。敷地外に捨てるいずれの考え方にも反対する意見が圧倒的だったのは当然である。
当初から我々が主張してきたように、まずは高濃度汚染水の排出をゼロにするためには、凍土壁などのじゃじゃ漏れの糊塗策はやめて、原発の四方に遮水壁を造り、地下水の流入を完全に遮断することが不可欠である。高濃度汚染水はセメント固化し、第二原発の敷地に建屋を造って保管すること、そのためには第一から第二まで汚染水移送の配管を敷いて、第二で固化するのも良いであろう。 (原 野人)
原発大事故から7 年がたって
独占資本の利潤追求は人々の命と健康をどこまで奪う
あれから7年がたったというのに、福島事故原発については事態が全く改善されていない。第一の1〜4号機の周辺地盤を凍結させて格納容器の建屋への地下水流入をなくすはずの「凍土遮水壁」は完成したのに、流入地下水はさっぱり減らず、高濃度汚染水は1か月で約1万トン増える。少し減ったかに見えた流入水は、台風や大雨でまた増えて、解決には程遠い。貯蔵タンクは敷地にあふれる。地下水の流入をなくし、汚染水の増加を防ぐにはどうすべきかはかねて書いてきた通りである。
格納容器のどこがどのように破損しているかの特定さえまだできない。そのため格納容器に水を張って核燃料デブリを上から取り出す水棺方式はあきらめざるを得なくなった。大がかりなロボットを開発して横から穴をあけてデブリを取り出す方式を考えているが、極めて難題だ。(本当はデブリを取り出さない管理保管を考えるべき。)
格納容器の底に落ちたはずのデブリは、まだほんの局部的にしか撮影できていない。内部装置の金属やコンクリートなどとどのように溶け合ってどのような硬い合金を形成して、どう分散しているかも分かっていない。人が近づくとたちまち死ぬほどの強い放射能だから、遠隔操作で削り出す被曝に強いロボットを開発するのも容易ではない。日立、三菱、東芝などの独占資本には良き利潤追求手段となるであろうが。
まずは必要な、1、2号機建屋内プールに保管されている使用済み核燃料の回収さえ高線量のがれき等に阻まれてままならず、3年先送りとなって事故終息を遅らせる。東電も国家・原子力規制委員会も、きちんとした遮水壁を造ることはせず、増える高濃度汚染水は、いずれ海に放流するつもりである。トリチウムや残存ストロンチウムなどの絶対量は大量になるが、大平洋の希釈に任せるという方針である。
県内の子どもの検査で甲状腺がんと診断された人は、昨年11月までに154人、疑いが39人となっている。各種放射能に起因すると思われる病気が増えている。「原子力緊急事態宣言」はいまだ発せられたままであり、福島県民は年20ミリシーベルトまで被曝してもよいとされ、「放射線管理区域」に住めとされる。自主避難者への住宅の無償提供などは昨3月に廃止された。被曝線量を年間1ミリシーベルトの限度に戻し、避難者と居住者に対する継続的な支援を提供させることは不可欠である。
再稼働の動向と原子力規制委員会
原子力規制委員会は政府や経産省とともに、独占資本のための国家機関であることをますます露わにしている。神戸製鋼所や三菱マテリアル等の品質データ改ざんで原発や原燃に使われている部品もあるが、問題なしとする。大型原発については、運転年数延長、再稼働許可の動きが顕著である。100キロ圏内はもとより、30キロ圏内の住民の安全な避難計画の策定も訓練の実施も審査の対象に入れないままである。
増加する使用済み核燃料は再処理もできず、最終処分場も決まらないままである。
関電も規制委も30キロ圏を持つ滋賀県の知事や県民の意思を無視する。関電高浜3、4号機と、九電川内1、2号機がすでに稼働している。関電大飯3、4号機と九電玄海3、4号機は、新基準をパスしており、どちらとも3号機が3月、4号機が5月に再稼働を予定している。大飯3、4号機といえば3年前に福井地裁が運転差し止めの判決を下し、危険性の大きさを指摘している。控訴審は昨年11月20日に結審したばかりである。控訴審で証言に立った元原子力規制委員長代理で地震学者の島崎邦彦東大名誉教授は、地質調査が不十分であり、断層から推算された地震の規模が過小評価されていると指摘している。(地震の専門家を一人ももたなくなった規制委員会はますます露骨な独占資本の御用機関となり、これを否定した。)高浜1、2号機、美浜3号機は新基準をパスして、40年を超える20年の運転延長が認められている。
四国電力は広島高裁の伊方3号機運転差し止め命令を覆すつもりだ。首都から百キロ強にある原電東海第二原発は運転開始から40年になるが、原電・東電・規制委も延長・再稼働を進めたい。30キロ圏内に百万人近くが住み、関東には4千万人が暮らす。水戸など5市は同意権を持つ新協定を結ぼうとしている。東電柏崎刈羽6、7号機も原電東海第二と同じ沸騰水型だが、規制委は新規制基準にすでに「適合」と判断したものの、新潟県民と知事の反対は粘り強い。
北海道沖の千島海溝沿いを震源とするマグニチュード9級の超巨大地震が迫りつつあるという予測が、政府の地質調査委員会から公表された。北電泊原発も、Jパワー(電源開発)の大間原発も、東北電東通原発も、原燃六ヶ所村再処理工場も、再稼働や完成どころではないはずである。
おごる独占資本と我々のエネルギー政策
目先の利潤をすべてのものの上に置く日本の独占資本は、反動政権を擁して50年先や10年先のことさえ読めない。福島原発の事故を経験し、東芝の落日を見ていながら、いまや一基の新設には1兆円の費用がかかり、改造にも数千億円を要するうえに、廃棄物の処分については何の見通しも立たない原発にいつまでもこだわっている。
経団連新会長の中西宏明・日立会長は安倍君のお友達のようであるが、日立が英国に計画する総額3兆円の原発の新設では政府系の国際協力銀行、日本政策投資銀行が軸となり三菱等メガ三行、東電等々が協力する。国家独占資本主義の面目躍如である。
我々は原発を即時全面停止するためには、よりましなガスや重油や石炭の火力に一時的に頼るべきだが、陸上、洋上を含め世界で最も恵まれているはずの風力資源を活かし、太陽、水力、地熱も加えて自然エネ発電を急速に拡大すべきとした。しかし独占資本は発送電の分離も許さず、基幹送電線は原発のために空けて利用率を1〜2割にとどめ、洋上・陸上の末端送電線の敷設も怠り、風力資源等の活用を逃げてきた。 立憲民主党の「原発ゼロ基本法案」には、原発の即時全廃と、送電網の国有化(あるいはせめてJパワーへの一元的所有化)による十分な活用と拡充と、自然エネ発電の本格的推進や、原発用に建造された揚水式発電の風力等への活用と火力の縮小を据えるべきだ。小泉元首相らの提言には、倅の人気を上げるとともに、大物反動政治家の「脱原発」の提唱に国民をほっとさせて改憲への流れを作るという意図が隠されているようにも見える。すべての原発の再稼働を中止させる運動をさらに強化して、目先の利潤のみを追求する独占資本とその反動政権をもっと孤立させよう。
(原 野人)
あれから6年がたって― 福島事故原発の現況と展望―
原子力緊急事態宣言下のまま
7年目を迎えるというのに東電福島第一原発では、いまだ「原子力緊急事態宣言」を解除できないままである。 理由の第一は、汚染水は週に2千トンを超えて増え続け、敷地にタンクがあふれんばかりである。処理された水とはいえ、トリチウムは少しも除去されていない。放射性ストロンチウムも、セシウムも絶対量としては多量に残存している。これを海に放出したいのだが、平常時の放出規制値をはるかに超えてしまう。
第二に、避難者を早々に帰還させてしまいたいのだが、そのためには通常の被曝規制値、年1ミリシーベルトを超えてしまう。緊急時の年20ミリシーベルトを適用しておきたい。
第三に、メルトスルーした核燃料がどのような状態で、何と溶け合っているのか、デブリには制御棒も分散して共存しているのかなどのことが全く不明のままである。
注水量を減らしても
1号機のデブリの発熱を冷やすための注水量を、以前は1時間当たり4・5トンとしていたが、昨年暮れから段階的に下げて、3トンにした。2、3号機も同様に注水量を減らして、1〜3号機で1日計約320トンだったものを約220トンまで、3割減らす方針である。核燃料に触れて発生する高濃度汚染水の発生量を減らすのが狙いだという。注水は汚染水となって建屋地下にたまる。これを抜き出して浄化処理し、一部を冷却用注水に原子炉へ戻している。だが注水量をいくら減らしても、循環量が減るというだけであって、建屋地下への地下水の流入を減らさない限り、処理して貯蔵するべき汚染水は、少しも減らない。
地下水流入を減らす切り札だったはずの凍土遮水壁も、当初から警告してきた通り、依然としてさっぱり効果が上がらない。台風や大雨の時には平時の3倍にも跳ね上がる。初めから指摘してきたように建屋の四方にきちんとした遮水壁を設置する以外に汚染水増加を止める解決はない。四方を深く囲めば、底部にまでは不要となろうが。
デブリの状態と取り出し
建屋内にあるプールの使用済み核燃料を取り出すのにも、建屋上部のがれき撤去やクレーンの設置等々で、まだ何年もかかる。2号機では、格納容器内にロボットを入れて中の様子を見ようとしてきたが、なかなかうまくいかない。目下、格納容器の台座に穴をあけ、サソリ型のロボットを送りこんでデブリの直接撮影を試みている。今までの投入された約40台のロボット中7台が未帰還で、他も強い放射線などによって破損し、要所の撮影には至っていない。破損した格納容器を修理して水棺状態にして、上からデブリを取り出す構想も、様々な物質と溶け合って固まっているだけに、想像を絶する困難な作業となる。水棺方式をあきらめて横から取り出そうという構想も、極めて危険で困難な作業となる。
40年かけてもできることか疑わしいだけでなく、どれほど多くの労働者を犠牲にせずにはすまないことか。またどれほど経費が膨張してゆくことか。経産省は福島第一の廃炉や賠償などにかかる費用がこれまでの想定の2倍の21・5兆円に上るとの見積もりを示した。廃炉費用は2兆円から8兆円に4倍増となった。こんな廃炉構想を進めることによって、これがさらにどこまで増えることか。
東電と安倍政権と経産省
金融独占資本をはじめとした債権者も大株主も、原発を推進してきた経営者も、政治家も、何の責任をとることなく、破綻したはずの東電は存続し、電気料金の上乗せと国税とによって、すべては勤労諸階級からの追加搾取に転嫁される。一方で、福島各地に出されていた避難指示は、安倍政権の下で、速いペースで解除して、「放射線管理区域」(3か月1・3ミリシーベルト)の4倍にあたる年20ミリシーベルトもの被曝をしかねない地域にまで住めという。避難指示に基づかない、いわゆる自主避難者への住宅支援(約1万2千世帯)は3月末で打ち切るという。
他方では、東電は原発事業を切り離して分社化し、ほかの電力会社の原発部門との連携を進めるという。「発送電の分離」は、すでに送配電網の分社化でごまかして、そのまま東電ホールディングスや各電力会社の配下にある。東電の廃炉費用も他の原発の廃炉費用も、「託送料金」に上乗せして、すべての電力利用者に負担させるという。自然エネルギーを中心とする「新電力」(電力自由化で新たに参入した電力小売り会社)から原発以外の電力を買おうとしても、高い宅送料をとられて、原発の費用を支払わされる。そればかりか、すべての「新電力」にも、原発による電力を一定量使わせることにするという。そのうえ「過去に原発で作った電気の料金は、事故に備えて上乗せしておくべき賠償費用が反映されていなかった」として、「新電力」に移った消費者も含めて追加の費用を請求するという。
メーカーの横暴
横暴なのは電力独占資本ばかりではない。三菱重工がフランスのアレバ社と合弁でトルコに建設を目指しているシノップ原発(110万キロワット級を4基)をめぐり、地震の揺れ(耐震設計の目安となる基準値振動)を最大400ガルと、極めて小さめに評価していたことが分かった。耐震化工事などで建設コストが高くなるため、小さくしたのであろう。トルコも日本と同様、有数の地震国だ。日本では九電川内原発で620ガル、関電大飯原発で856ガルを想定し、1000ガルを超える原発もある。日本のこれらの数字も、過小評価であり、計算方式を見直さなくてはならないと、地震学者で前規制委員長代理の島崎邦彦東大名誉教授が警鐘乱打している。ましてトルコの数字がいかに過小評価であるかは論を待たない。 三菱は最新鋭戦車もトルコに売る計画である。地震ばかりでなくクーデターやテロがよく起こる国であるが、目先の利潤のためにはどこまでも商売優先である。原発輸出関連でいえば、ベトナムは原発計画を中止した。ベトナム国会は、日本とロシアから受注することになっていた初の原発建設計画を中止することを昨年11月に決定した。中部ニントアン省の2カ所に100万キロワットの原発を2基ずつ造ることを決めていたが、安全性やコスト増や財政難や核廃棄物問題によって、中止を決断した。官民一体で売り込んでいただけに、メーカーも安倍政権も痛手となった。ベトナムは日本の独占資本にとって、交通、火力発電などインフラや軍艦をはじめ、今後あらゆる産業で輸出を拡大したい国であり、原発中止の流れを止めたいところである。健康問題と高齢を理由に仕事を辞めたいという天皇を鞭打って限度まで活用し、独占資本とその安倍政権は、夫妻にこの3月、ベトナムを訪問させる。
メーカーの苦境と活路
東芝は原発メーカーの中でももっとも苦境に立っている。2006年にウェスチングハウス・エレクトリック(WH)を6千4百億円で買収した東芝は、それまでWHと提携してきた三菱重工などと競り合って、高すぎる買い物をしてしまった。WHの加圧水型の技術で世界の市場を支配しようという目論見をもち、東芝は30年度までに原発45基を受注するという目標にこだわっていたが、福島事故は想定を壊してしまった。米子会社のWHはさらに強気で、29年度までに64機の受注という目標を持ち、すでに米国で4基、中国で4基を受注し、米、中の他にもインドやポーランドやブルガリアやトルコなどの受注にも意欲を見せている。
6年前からは世界的にブレーキがかかっている。この1月には近くの台湾も立法院(国会に相当)で、25年までには全原発を廃止することを決めた。原発廃止による電力不足分は自然エネルギーで補う方針である。一方では、ロシアも、またWHから技術供与の契約を結んだ中国も、日本の資本に対抗して原発輸出に懸命である。WHに損失を抱えていることが判明した上に、WHが昨年に原発建設会社CB&Tストーン・アンド・ウェブスターを買収したことがさらに裏目に出た。東芝は7千億円の損失を出し、負債が資産を上回る債務超過になりかねない事態である。「虎の子」の半導体2兆円事業を切り売りするという。主力取引銀行だけでなく、政策投資銀行に支援を要請している。国家独占資本主義のあらわな姿である。
三菱重工はといえば、大型客船事業で累計2千3百億円の損失を出して撤退し、MRJ(三菱リージョナルジェット)で開発費が1千億円増加し、原発も国内外ともに受注が進まない。蒸気発生器の故障で廃炉となった米国の電力会社からは7千億円超の損害賠償を求められている。他方では防衛省初の軍事衛星がH2Aで打上げられた。日本独占資本の頂点に立つ三菱は、軍艦や軍用機や戦車や軍用ロケットなど、ますます軍事に活路を求める様相である。
(原 野人)
『もんじゅ』と核燃サイクルの終焉 ― はかなく消えた独占資本の夢―
悪夢の原子炉
安倍政権もとうとう「もんじゅ」(福井県)を廃炉にせざるを得なくなった。「もんじゅ」を原型炉とする高速増殖炉と再処理工場(青森県)とによる核燃料サイクルこそは、燃料をプルトニウムとして増殖し、準国産燃料として、夢のサイクルになる、とマフィアのごとき独占資本とその政治的代理人たちは喧伝してきた。天然ウランに微量しか含まれない核分裂性のウラン235だけでなく、主成分である核分裂しないウラン238を燃料に転換して有効に利用できる構想である。
炉心に、プルトニウムの酸化物と、劣化ウラン(ウラン濃縮工場で濃縮ウランを取り出した後のウラン)の酸化物との混合酸化物(MOX)燃料を使い、周りのブランケットには劣化ウランや減損ウラン(再処理で使用済み燃料から回収されるウラン)を使う。冷却材に水ではなく液化ナトリウムを使うことによって、中性子を減速させることなくウラン238に吸収させて核分裂性のプルトニウム239を作り、核燃料を増殖させる仕組みである。
遅きに失した日本
しかしナトリウムが漏れて水と接触すると爆発的に燃えるし、空気に触れれば激焼する。しかも出力上昇の制御性は極めて悪く、もし燃料被覆管が溶融して高純度プルトニウムが炉の底にたまると核爆発の危険さえ生じる。構造上、地震にはきわめて弱い。こんな装置が「夢の原子炉」どころか「悪夢の原子炉」であることは、とうに世界的に証明されていた。
フランスでは「スーパー・フェニックス」を20年前に閉鎖した。ドイツのカルカーでは少しも稼働させないまま、二五年前に廃炉とし、遊園地に改造されている。米国や英国でも30年前には中止した。日本でも、せめてナトリウム漏れを起こした二一年前(初臨界の一年半後)の事故で、廃炉を決めるべきであった。仮にプルトニウムを増殖したとしても、高くつくばかりで、安全性も経済性も成り立ちえないことが実証されている。
当初にかかる費用は350億円の見積もりだったが、すでに1兆2千億円を浪費した。停止状態でも日に5千万円の維持費を要する。廃炉費は3千億円とされる。さすがの原子力規制委員会も看過できず、「もんじゅ」を運営する研究開発機構の交代を勧告してみたが、代りの運営主体があるはずもない。この運営など、計算高い電力会社が受けるはずもない。これに関わってきた技術者等自身が、現実性のない悪夢の装置であることを知っているからこそ、1万件もの点検や修理を怠ってきたのであろう。とはいえ軍事部門の独占資本とその政治的代理人のなかには、岸信介元首相を祖父とする安倍晋三首相を筆頭に、戦争立法と改憲のかなたに自前の核武装をめざす諸君も少なくない。核分裂性プルトニウム239の純度の高い物を作って、H2Aロケットなどで使える核弾頭にしたいという思いも弱くない。そのために高速炉から全面撤退するのは無念である。彼らはフランスと共同で高速炉『アストリッド』計画を進めたり、いまさら古い実験炉『常陽』(茨城県)を生かして、その余地を残すことにした。
もっとも原発の使用済み燃料から海外委託等の再処理でできた低純度のプルトニウムならすでに48トンも保有し、長崎型原爆を六千発も造ることはできる。低純度だから、軽い核弾頭用には無理であるが、飛行機での核兵器に使うことはできる。戦争法と改憲によって、爆撃機を持つこともできる。装備されているP―1哨戒機やC―2輸送機を生かすこともできるし、MRJ(三菱リージョナルジェット)を改造利用することも可能となる。
使用済み燃料の再処理と核燃サイクル
高速増殖炉が悪夢と消えれば、再処理工場も無意味となる。使用済み核燃料は、再処理しないまま管理保管するほうがはるかにましである。再処理工場では第一に、燃料被覆管内に閉じ込められている放射性ガス(クリプトンやキセノンやヨウ素等)が全部大気中に放出されるからである。第二に、使用済み燃料は高温の強酸で溶かして処理するので、これに長時間耐える材質はない。ときどき穴があき放射能漏れ事故を起こすため、まともに長時間動いている再処理工場は世界でどこにもない。第三に、そのため労働者の被曝は深刻となるし、高濃度汚染水の海への排出も多くなる。第四に、プルトニウムを溶解し、溶液で扱い分離・精製するので、プルトニウムがどこかにたまり、臨界量を超えて暴走することが起こりやすい。このような再処理工場は『もんじゅ』とともに、速やかに廃止するのが当然である。
だが目先の利潤しか考えない電力資本は、使用済み燃料を原発敷地外にもっていってしまいたい。それには再処理工場は稼働しなくとも、廃止にはしたくない。
どこまで増える庶民負担
再処理工場(青森県)は1993年に着工し、1997年完成予定だったものが23回も「完成延期」を繰り返してきた。建設費は当初予定の三倍にふえ、2兆2千億円を超えた。事故続きで稼働していないが、すでに7兆3千億円を浪費した。
再処理工場と『もんじゅ』やMOX燃料工場(建設中)など、核燃料サイクル全体としては既に12兆円を浪費したが、稼働不能でも毎年1千600億円かかっている。再処理工場の事業主体は電力会社の出資する日本原燃だったが、電力会社の手におえなくなり、国が監督する「使用済燃料再処理機構」を新設して、ここに責任を移した。同機構は日本原燃に再処理を委託する形をとるが、国家が事業計画等の前面に出て、税金も使っての延命であろう。こうした延命・浪費によって、庶民の負担がこの先どれほど増えていくことか。
高レベル廃棄物は
政府は、再処理工場を延命させる理由に、普通炉(軽水炉)でのプルサーマル推進をおく。しかし再処理で抽出されたプルトニウムは、ウランに比べて極めて高くつく。電力会社は、英仏から加工・返還されたMOX燃料を、お義理で使わざるを得ないが、なくもがなの買い物である。原発の出力制御が難しく危険性を増すだけでなく、使用済みのMOX燃料は、普通の使用済みウラン燃料より冷却を要する期間が長くなる。有害な放射性物質の量も多くなり、再処理の方法も、そのあとの処分の方法も定まっていない。
使用済み燃料は、前記のように再処理はしない方がましであるが、ウランとプルトニウムとを抽出した後の廃液は、様々な核分裂生成物等を持っていて、強い放射線を出す。ガラスの原料と混ぜて溶融しながらステンレスのさや(キャニスター)に納めるとはいっても、均一にガラス固化などできるはずもない。ガラスとなじみにくい物質、脆化させやすい物質も含まれる。キャニスターに流し込んだ後、固めるのに急冷すればひびが入りやすく、時間をかければ重金属(核分裂生成物)が底に沈降しやすくて局部的に放射線と熱が強くなるので、いずれにせよ脆化が速くなる。
この点でもジルカロイの被覆管に納められた使用済み燃料のままで、空冷機密容器にいれて、十分な耐震施設の中に管理保管していく方がましである。安倍政権は沿岸海底下などに、この処分場の「適地」を定め、上意下達で決めようとしている。日本列島にはいくつものプレートがせめぎあい、無数の活断層と火山帯が走る。地下水も豊富で、海底なら海水も浸入する。地下に埋設して、10万年も閉じ込めておくことなどできるわけがない。
(原 野人)
廃炉をどうするべきか 独占資本の思惑と、取るべき道
40年を見込む廃炉処理計画
東電と政府はメルトダウンした原発を40年もかけて廃炉処理する計画である。メルトダウンした核燃料(デブリ)を取り出すためには、極めて高い放射線を遮蔽しなくてはならない。そのために格納容器を満水水棺状態にして頂上に穴をあけ圧力容器(原子炉本体)の上ぶたを外し、両容器の底にある(とされる)デブリを削り取るという。その後で原子炉も格納容器も解体撤去するという。
それには先ず格納容器の水漏れ部分を探し出し、そこを修理しなくてはならないとする。1、2、3号炉とも冷却水がじゃじゃ漏れであるところを見ると、水漏れ部分を全部見つけて修理するだけでも大変な作業となる。
これらの仕事には、それぞれの作業に適したロボットを開発中であるが、三菱、日立、東芝がこれを担っている。彼ら独占資本にとっては、何十年かにわたって、原発の建設に劣らぬ特別な利潤が保障されているようである。
他方では、ロボットをいかに遠隔操作しても、それを近寄せてエネルギーを補給したり、修理したりのメインテナンスだけでも、労働者は高い被曝を受ける。
原子炉も格納容器もプールのなかへ
かねてから大問題になっている高レベル汚染水の増加は、格納容器底部の地下室に地下水が日に400トン以上も流入していることによる。拙著などでも指摘してきたように、建屋周囲に遮断壁を設置することが不可欠である。
上流の井戸から地下水をくみ上げて海に放流する方策も、せいぜい一割程度の流入減が見込まれる話である。しかも上流におかれた安普請のタンクから漏れ出す汚染水はこの井戸水にも入っていく。地下凍結方式も、流れの速いところまでは遮水できないし、長期的な安定性は期待できず、良策でないことは始めからわかっていた。
底部も含めて、地下水の流出入を完全に遮断する遮水壁を早急に造ることこそ必要である。原子炉も格納容器も建屋内の汚染された機器や残骸も、建屋周囲の堅固な遮断壁に囲まれて出来るプールに収めてしまうことこそが最善と思われる。
これによって、高レベル汚染水の果てしない増加から解放されるだけではない。原子炉や格納容器等をプールに収めることによって、水による完全循環冷却システムを作ることができる。プールには一定の屋根を設けるとしても、崩壊熱の減少とともに、やがて窒素循環冷却等々に移行することもできる。
原子炉も格納容器も、半永久的に解体しないで、このようにして管理保管してゆくのがベターである。さもないと上述の手順で始まる解体撤去作業は、第一に被曝労働をいよいよ深刻化させずにはすまない。第二に持って行き場のない各種の放射性廃棄物をむやみに増やし拡散させることになる。
(原 野人)
もんじゅ使用停止
核燃サイクル・原発は破綻
原子力規制委員会が出した高速増殖炉もんじゅの使用停止命令は、当然のこととは言え、遅きに失している。これは、核燃料サイクル全体の破綻を意味する。天然ウランの主成分が
利用できないことで、原発は資源的にも破綻だ。
高速増殖炉がいかに安全性も経済性も成り立ちえないものかは、世界的に明らかになり、 20年も前に米英独仏などは開発をやめた。とくに先行して実用化を試みた仏の実証炉「スー
パー・フェニックス」で破綻が十分に実証されている。 なかんずく地震列島に、ナトリウムを冷却材とする原子炉が許されてよいわけがない。
規制委も驚く実態
この機構で「もんじゅ」に携わる人々もこの事実を知らないはずはない。知っていたからこそ本気度もそがれ、うち続く事故にも、必要な1万点もの機器点検を怠ってきたのではないか。
「安全についての基本認識に欠けている。こういう組織が存続していること自体が問題だ」と規制委員会の嶋崎邦彦委員長代理が批判せざるを得ないほどになっているのだ。
もんじゅにはすでに1兆円の国費が費やされた。停止したままでも1年間の維持費は174億円もかかる。冷却材のナトリウムが固まらないように熱し続ける電力だけでももったいない。速やかに廃炉とするしかない。
再処理工場も無用
「夢の原子炉」が悪夢と消えたら、六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場も無用の長物となる。ここで精製されるプルトニウムを使って、天然ウランの主成分である非核分裂性のウラン238を、高速増殖炉で核分裂性のプルトニウム239に転換して活用するのが目的だ。
再処理工場は予定の3倍の建設費を使って、2000年に使用済み燃料の受け入れを開始したが、事故続きで試験稼働にさえ耐えない。稼働しなくても維持費だけで年に1100億円もかかる。
もんじゅと再処理工場の核燃サイクルは、すでに10兆円浪費した。ここから生まれる高レベル廃棄物(硝酸溶液)のガラス固化設備もまともに稼働できない。
再処理は被覆管に閉じ込められている放射能を大量放出するだけでも、やってはならないことであるが、高レベル廃液タンクの冷却に失敗すれば、爆発飛散により広範な人命を奪う。再処理工場も、速やかに廃止するしかない。
大悲劇防ぐために
十分に改善されたと規制委が判断すれば、もんじゅの停止命令は解除される道も残されている。もし強引に稼働させれば、悲劇的な大事故によって従事者も往民も命を奪われ、西日本も、東日本も、日本海も壊滅的に汚染されるのは時間の問題となる。
だが、核兵器用の高純度な核分裂性プルトニウムが得られるから、廃炉にしたくないという勢力が少なくないだけに予断を許さない。
(原 野人)
原発の新基準案
フクシマから何も学んでいない
原発の新しい規制基準案が2013年4月10日、原子力規制員会から提示された。7月から施行される予定だが、大幅な強化を装いながら、内実は基本的に福島事故を無視するものであり、再働や新設を推進するためのものになりかねない。
原子力規制委員会が作るうとしている新規制基準案は基本から誤っている。
第一に、福島事故を究明した上での基準案ではない。放射能があふれた事故現場では、格納容器のどこが破れているかを特定することさえできていない。ましてや、格納容器内の原炉周辺の配管、冷却水供給配管や再循環配管や王主蒸気配管や、各種の緊急冷却配管や制御棒案内管等々が、どのような状態であるかは把握できていない。
亀裂や破断がどこにどのように発生しているのかが分からない。津波以前に、地震によって亀裂や破断が発生した可能性が大きい。これが主因で冷却材喪失・炉心溶融・水素爆発になったとしたら、防潮堤をいかに高くしようが、通常の制御室の他に制御室を造ろうが、作業拠点のいかに頑丈な免震施設を造ろうが、気休めでしかない。
ひとたび過酷事故となると、人が近寄ってベントのバルブを操作したりすること自体が困難となる。圧力計も水位計も温度計等々も破損するか、信頼性がなくなって、的確な制御が不能となる。
不可欠な対策が
第二に、過酷事故になれば、高レベル汚染水があふれてしまうことを今の福島が示している。原子炉・格納容器の建屋などは、側面からも底部からも地下水から遮蔽することが不可欠である。
海の深刻な汚染を防ぐためには、再稼働する前にどこの原発も実施するべき工事である。それが高くつきすぎて、採算に合わないというのなら、再稼働は全てやめるしかない。
第三に、再稼働や新設のための新基準であるとすれば、使用済み燃料や高レベル廃棄物を、どこにどう処理・処分するのか、具体的に決めてからでなくては、旧規制基準と基本的に違わない。
推進の為の規制
第四に、大飯3、4号機の下にある断層は、4人の専門家の調査でも活断層らしいことになったのに、詳細調査を後で実施するからと、その決定を先に延ばして、稼働を許していることからも、すでに規制委員会の実像が浮き彫りになっており、新基準を決める資格などはない。
そもそも原子力規制委員会なるものは原子力基本法に基づいて開発を推進するための国家機関であって、マフィアのごとき独占資本の恥部を隠すためのイチジクの果てしかない。
7月からはこれに基づいて、多くの原発を再稼働に導きながら、40年を超えるものは20年の稼働延長を認め、新設も許可していく算段であろう。このような規制委員会に期待することなく、労働者と市民の闘いを強化するしかない。
(原 野人)
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